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肉筆
伊藤 哲 Satoshi Ito
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「山ぶき」
古今和歌集の歌の一句
「山ぶきはあやなな咲きそ花みんと植へけむきみがこよひ来なくに」
からイメージして制作。

「深見草」
静かな空気に包まれて、花の王者と呼ばれる牡丹が大輪の花を咲かせる。その香りにさそわれて蝶が舞う。
技法:銀色の箔部分は全てプラチナ。花の背景はアルミニウム粉(泥)。牡丹の花びらには水晶の粉を使い、透明感のある白にした。

「紅蓮」
泥の中に根を張って、水面に芽を出し、やがて空中に花を咲かせる蓮。たとえ話、泥の中を俗世、花を咲かせる空中を悟りの世界、浄土ということがある。蓮の花が咲いている情景を見ていると、人のなやみや苦しみが消滅した。悟りの世界とは、こんな世界なのかと引き込まれる思いがした。
技法:蓮花の面は金銀による哉金、野毛、砂子。左は銀箔を硫黄で化学変化させて表現。

「日蝕」
日蝕の中、太陽のコロナだけが不気味に光を送る。ポジがネガに変化することで、これまで見ていた風景が違ったものになる一瞬。自然界は神秘に満ちている。―――古来、人はそんなところに畏怖の念を抱き、自然を崇めてきたのだろう。
技法:牡丹の面は金泥(粉)。左の面は金箔。太陽のコロナは金の砂子。

「道成寺」
歌舞伎の演目、道成寺から着想。桜満開の山の中にある道成寺で、旅の僧侶に恋をした娘が、その僧侶に裏切られる。逃げる僧侶を道成寺の鐘の下で焼き尽くすという恋物語。ストーリーとは別に、この演目は艶やかな舞台美術で、観ていて楽しい。そのエッセンスを画面の中に再構成してみた。

「関の扉(せきのと)」
「道成寺」に同じく歌舞伎の演目より。雪山の関所に何故か満開に咲く古い桜。幕が上がった瞬間のその不思議さは、何とも云えず綺麗だった。・・・私が興味を持つのは、長い日本文化の中で培われてきた花鳥風月や雪月花の美意識が、歌舞伎の中に様式として結実していることだ。江戸時代から現代へ、タイムスリップしたような歌舞伎は、私にとってシーラカンスを見るように楽しくもあり、勉強にもなっている。

「水の中の金閣」
京都の金閣寺に取材。水面に映る金閣寺。約500年前の足利時代の栄華を今に伝える黄金の寺。今の建物は、一度消失したものを再建したものである。以前の姿を記憶しているのは、その前に在る池の水だけかもしれない。その池には往時を懐かしむように鯉が悠然と泳いでいる。

「蓮花座」
蓮の花にとまる蝶。その姿は悟りの世界に座する仏様の姿にも似て。画面左は、夕日を表現。西方に在る浄土をイメージさせるために構成した。
技法:円型は「蒔きつぶし」という技法で、純金の粉を膠を塗った上に何度か蒔く技法。刷毛目が出ない、マットな輝きを出す。右の蝶のいる画面は純金箔。

「麗日」
春、命は蘇り、自然界は活気付く。

「秋の夜」
澄み渡った夜空に煌々と付きが光る。夜露に濡れたクモの巣はジュエリーの様。

「蝉の羽衣」
夏の早朝、あさがおが開く。朝霧の中、羽化したばかりの蝉の羽は初々しい薄緑。夏の清涼感を表現したかった。
「技法についての解説」
蒔きつぶし:純金の粉を膠を塗った上に何度か蒔く技法。
刷毛目が出ない、マットな輝きを出す。
<金属箔について>
砂子 :金属箔を網目の上でこすり、こなごなにした細かい箔。
野毛 :箔を竹刃で細かくきったもの。
泥 :砂子をより微粉末にしたもの。
版画
伊藤 哲 Satoshi Ito
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四季シリーズ(春夏秋冬)

「あけぼの」
枕草子にあるように、春のもっとも良い情景とされる明け方の景。
昨夜の月の光の中、桜を眺めたことを思い出しつつ。

「午後の風」
昼下がり、陽光に包まれた庭先に咲く立葵の花。その間をゆったりと蝶が舞う。そんな白昼夢のような光景を作品にしたかった。赤と黒のシルエット、連続と断切の構成はエリック・サティ作曲、三つのジムノペディのスローなリズムを思いながら制作した。

「秋麗」
秋の空に、蝶達が優雅に舞う。
まるで古えの貴族達が昔を懐かしむように。

「冬日」
冬の日、窓から覗く雪の庭。全てが白く覆われるなか、椿の赤がより美しさを増す。
冬ならではの美を感じ、絵にした。
損保ジャパン選抜奨励展選出イメージ

「誕生」
年ごとに花は咲き、やがて種子となり、次なる命を繋いできた生命の永い歴史。広大なる宇宙の中で、一つまた一つと誕生する生命の神秘と歓喜を仏教思想における輪廻転生の概念と重ねて象徴的に表現しようと思った。
メディア
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月刊美術2007年6月号で作品「誕生」が表紙に選ばれ、特集記事が組まれている(P97~P102)

婦人画報2007年7月号のARTコーナーで個展情報の掲載(P341)

日本書法Vol.9で対談掲載(P14~P19)

日本書法Vol.11で個展情報の掲載(P62~P63)

ARTS JAPONAISのVol.6で注目画家として紹介されている(P46~P47)

芸術倶楽部Vol.26のアート・オン・ザ・コーナー「考える画家たち」で紹介される(P42~P43)

書に遊ぶ2001年9月号で特集記事が組まれている(P74~P77)
活動履歴
絵画展写真
ギャルリー江夏個展



2007年6月8日~25日の期間、ギャルリー江夏にて初個展を開催。絵画作品だけではなく、長尺の絵巻物も展示されました。
ニューヨーク アートエキスポ





2008年3月のNYアートエキスポに出展。会場のブース最高動員を記録し、とても人気がありました。箔打ちの実演では、たくさんの方に日本の伝統技術の素晴らしさを体感していただきました。
東京・池袋東武百貨店





2008年11月、東武百貨店池袋店にて個展を開催。新聞に取り上げられるなどして、多くの来場があり、とても賑わいのある絵画展でした。
※次回2010年10月開催予定
インタビュー
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伝統技法との関わり
伊藤画伯の作品は日本古来の伝統的な日本画や工芸の技術を巧みに用いながらも、これまでとは異なる新しい表現がされていると思われますが、現在の制作スタイルに至った経緯、また、創作する上での伝統技法との関わりについて教えて下さい。
千葉県 長徳寺蔵(仏涅槃図)182.5×135cm
経緯としましては―――
大学は油絵科で入学して、大学院は版画科で出ていますし、広告代理店時代はアートディレクターとデザイナーの仕事をしていました。
広告制作での経験は、日本文化に関心を持つ大きなきっかけになりました。それは何より、日本人による日本人のための、日本の商業美術であったからです。日本人でありながら、自明のものとして、実は日本を知らない自分。仕事の合間を縫って茶道を習ったり美術館に通ったり、本を読んだりしました。
風土や生活に根ざしたデザインには必然性があり、生きた造形として人の社会に役立つ。日本画というものも、そういう中で育まれた日本独自のデザインの一つと認識しました。
ここで私の中にある画家魂に火が付いたのです。「前衛芸術」などと言って、社会性のまったくない訳のわからないものには辟易していましたので、ようやく地に足の着いた手法が見つかった気がしました。そこから私の日本画探求、そして自分探しの旅が始まったわけです。そんな経緯からも、私の作品は色々な要素がミックスされた表現になっているのかなと思います。
まだ途上です。これからやらなければいけない事だらけです。
伝統技法との関わりについては―――
私のこれまでやってきた仕事の主なるところは、やまと絵(日本画の原点)のルネッサンス再構築ということです。
古典絵画にある技法は、合理的で必然性のある理にかなった素材の扱いをしています。だからこそ、何百年もの年月を経ても状態を保ち、今の時代に伝えられているのです。そういった基本は今も昔も変わりませんが、時代の美意識は刻々と変化していきます。 古典に学び、それを現代の表現として、いかに生かせるかが作品の生命線になっています。

千葉県 長徳寺蔵(須彌壇蓮華絵図)132×340cm
アイディアの源泉について
作品イメージの展開に関してですが、そのアイディアの源泉がどこにあるのか、また、どのようなプロセスを経て完成まで至るのでしょうか?
アトリエでは早朝より落ち着いた環境で制作を開始する
発想の原点はモチーフとの出会いと言えます。私の資質と、外から入ってくるモチーフが、何らかのカタチでスパークするのでしょう。そのモチーフとは、自然界、文学、絵画、音楽、演劇、といった様々なものが対象となります。
普段から少しでも気になるものはチェックするようにしています。ですから、部屋は蔵書やら何やらでいっぱいになってしまい困ってしまう・・・しかし、それが創作への栄養源になっているわけです。
制作に入るとスケッチを中心に構想を練り、小下絵制作から原寸の大下絵を作り、本画へ入ります。中、小品に関しては、パネル制作、下張りから本紙張り込みまで自分でやります。こういうプロセスは重要で、その作業時間の流れの中で構想が深まっているのだと思っています。
絵筆を同時に使い分けながら画面へ集中して向かう
画面構成について
横長様式の画面構成は、これまでになく見ていてとても新鮮であり、また私たちが本来持つ繊細な感覚を呼び覚ましてくれるような気がします。この伝達方法を選ばれた理由を教えて下さい。

日蝕 90×360cm
横長の画面については―――
古来より日本的精神を語る上に代表される「もののあはれ」や「うつろい」の感覚を示顕する私なりの試みです。そこには絵巻物にあるような、時の流れをいかに現代作品に取り込むか、という思いがありました。幾つかの要素と、間や連続のリズムを組み合わせることによって生まれる短歌的世界と言えるかもしれません。 付け加えるならば、現代日本画が軸装から額装へ様式が変化してきた中で、西洋絵画にある、窓枠としての額縁から覗き見る遠近法(パースペクティブ)的思考へ徐々に移ってきている様に思えて、日本画の独自性を復権させたい思いもあり試行しました。

紅蓮 90×360cm
作品への取り組み
それぞれの作品を見ていると、その丹念な仕上がりは本当に作品ひとつひとつが大切に仕上げられていることを感じます。普段はどのようなペースで仕事をされているのでしょうか?
絵皿で岩絵の具を膠と練る
私は絵に対して、ある種の工芸性を聖視しています。もともと、工芸も絵画も同じものでした。近代に入ってからジャンルが別れたのですが、根本的には繋がっています。今日、工芸的という言葉が悪い意味で使われますが、私はむしろポジティブに工芸性を捉えようと思っています。それが日本美術の真骨頂でもあったのですから。 アイディアは斬新に、仕上げは丁寧に、が肝要です。作品を作るペースはテーマによりますので区々です。

ひと筆ごとに作品に命が吹き込まれていく
オリジナル版画について
この度制作された版画5主題に関しての仕上がりはいかがでしたか? 画伯ご自身の版画に対する思いもぜひお聞かせ下さい。
版画「誕生」49×61cm
版画工房の技術の高さは勿論の事、打ち合わせを重ねながら、私の作品の特長や内容を深く理解して頂いた点が良い仕上がりに繋がったのだと思います。
中世の昔、木版や銅版の複製技術を用いて、イメージなりメッセージを同時に多くの人に伝える事を目的としたのが版画の原点でした。21世紀の今日、『彩版画(※)』という高度なデジタル技術と、鍛え上げられた刷り職人のアナログ技術を組み合わせた、最新の版画を制作出来る事は、この時代を生きる画家(絵師)として大きな喜びを禁じ得ません。 多くの方々に、オリジナル版画を御覧頂ければ幸いです。

版画「午後の風」18×72cm
※彩版画 彩版画技法は、特殊顔料インクの研究開発および特殊製版技術とシルクスクリーン技法の融合によって、細部までこだわりの色彩表現がされています。特に箔打ちの再現には優れたテクニックが駆使されています。
プロフィール

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イメージを飛翔する蝶(生成流転)
万物が織り成す生死の営みを、穏やかな時間表現とともに描き、
小さな存在に宿る宇宙の壮大さを画面に展開する
日本の絵画史の上で、絵巻物語はその原初より重要な位置を占めており、巻物を右から左に少しずつ開きながら物語を追っていくスタイルは、挿絵と物語が一体になり、洗練された日本独特の芸術表現形式を生み出した。自然と空間に溶け込み、生活空間を幽玄美で装飾する日本美は、自己を主張するタイプの絵画とは対照的な表現形式を持つ。
人の心の奥底に流れる、深い感情の襞を心にしみて受け取った王朝人の情緒は、そのまま現代に生きる私たちの暮らしへと自然に受け継がれている。
年ごとに雪が降り、花が咲き、風が吹き、月がさえる雪月花の日本独特の美世界を、伊藤哲の作品はこの古典の世界に題材をとり、日本古来の伝統美と現代にも通ずる瀟洒な装飾性において、象徴美の世界まで高めている。
略 歴
1962年 千葉に生まれる
1986年 東京芸術大学美術学部油画科専攻卒業
1988年 東京芸術大学大学院美術研究科版画専攻修士課程修了
1995~96年 淡路町画廊個展
1998年 INAXギャラリー個展
1999年 天ぷらOkamoto「おかもとの四季」制作
2000年 電通恒産画廊個展
2001年 渋谷東急百貨店 黎明展
長徳寺 須彌壇蓮花絵図制作
2002年 ハナエモリ オープンギャラリー個展
2003年 平和へのメッセージ展 佐藤美術館
長徳寺 仏涅槃図制作
2005年 アートフェア東京出品
2006年 京王プラザホテル個展
2007年 ギャルリー江夏個展
第4回エッジ展 高知県立美術館 県民ギャラリー
東武百貨店 池袋店
2008年 ニューヨーク アートエキスポ出展
損保ジャパン東郷青児美術館 選抜奨励展
武蔵野美術大学 αMプロジェクト フローラ・新本草図譜集展
百花繚乱展 高知県立牧野富太郎記念館
